ヒプロメロースってなに?安全性と用途まとめ【学術論文】
ヒプロメロース(Hydroxypropylmethylcellulose 2208:HPMC)は医薬品添加物として利用されており、基材や結合剤として使用されています。経口摂取上限量は40mgとされており、1日の摂取許容量は推定できていないので過剰摂取はしないように気をつけましょう。調査をしたのは山梨大学工学部生命工学科を卒業し、生命工学、生化学、発酵生産、食品衛生、高分子化学、無機&有機化学を学んだ私自身です。
ヒプロメロースの基本情報
ヒプロメロース(別名:Methylcellulose propylene glycol etherまたはCellulose 2-hydroxypropyl methyl ether)は、基材、粘着剤、結合剤として医薬品に使用されています。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)と同種のものと判断されており、マウス雌の経口摂取でLD50(mg/kg体重)=>1 g/kgです。
- CAS 9004-65-3
- C56H108O30
- 水溶性
- 分子量:1261.4387(g/mol )
ヒプロメロース(HPMC)の毒性
ラットに対して、HPMCタイプBの 0, 2, 10又は50%含有食を30日間与えると、下痢を発生させたという実験結果が発表されています。若いラットに120日などの長期間与え続けると栄養失調などで30% – 50%のラットが死亡したとされています。
引用
Crj:CD(SD)ラットに市販の最低粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースを505, 1020又は2100mg/kg、3ヶ月間経口投与した。最高用量の2100mg/kg群では投与28日以降に雌雄とも対照群に比し体重は低下したが有意差はなかった。この変化は雄でより顕著であった。同用量群の雄では摂餌量及び尿量の減少傾向も見られたが有意ではなかった。一般状態、血液分析、眼検査、臓器重量、剖検所見及び組織検査では偶発的に有意差の認められる項目もあったが用量反応性はなかった。最低粘度のヒドロキシプロピルメチルセルロースは高粘度のそれと同様、極めて毒性が低いものと結論される。3) (Obara et al., 1999)
以上の引用より、雌雄で言えばオスの方に影響が出やすいようで、相当多く摂取させない限り毒性が影響することはないと考えられます。反復摂取でも少量であればそれほど害があるとは発表されておらず、人体においては体重に応じた実験結果を確認する必要があると判断できます。
ヒプロメロース(HPMC)の癌原性
マウスに対しての実験において、HPMCを摂取しているものと摂取していないもので腫瘍の発生に差はなかったとされています。
引用
1群雌雄各50匹のラットに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース タイプBの 0, 5又は20%含有食を2年間与えた。最高用量群の雄では体重増加の遅延が認められた。死亡率は60-84%で投与群間に有意な差はなかった。腫瘍の発生頻度は対照群と変わらなかった。1) (Hodge et al., 1950)
その代わり、生殖機能に関しての研究は該当する論文が不十分で、精子形成や卵子形成に対してどんな影響があるかは言及できません。今後、マウスでも人体でも生殖機能に対してヒプロメロース:HPMCが影響するのかどうか、きちんと研究をする必要があります。
フィルムコーティングに使われているものとは別物
ヒドロキシプロピルメチルセルロースを元にして開発されたものに、TC-5と呼ばれる水溶性フィルムコーティング剤や、顆粒用水溶性フィルムコーティング剤などがあります。ヒプロメロース:HPMCは基本的に安定していて、化学的にも生理学的にも不活性でよほど大量に摂取しない限り無害です。
例えば、アムウェイの勧誘などにおいて、他社ではサプリメントや医薬品のカプセルにHPMCという写真フィルムに使われるようなものと同じ成分が使われていて危険だが、アムウェイではそういうものは使っていないというような説明を受けたという話を聞いたことがあります。(山梨県公安委員会認定探偵第47120002号Genussmittel)
こうした説明は虚偽の説明にあたり、化学的事実とも異なる上、アムウェイでもサプリメントの製造過程において、HPMCそのものは使用していなくても似たような構造の全く別名の物質を使用しております。少量摂取に関しては両者ともに危険はないものなので、過剰摂取だけしないように気をつけてどちらも賢く利用しましょう。
使用基準改正で利用範囲が広まった
ヒプロメロース:HPMCは従来サプリメントや医薬品のカプセルにしか使用できませんでしたが、肉汁ソースやパンやケーキの原料、冷凍ピザの原料、フライドポテトの原料などにも使用できるとされています。個人的には好きじゃありませんが、ケーキのボリュームアップや肉汁ソースの品質アップに使えるとなるとカップ麺やインスタント食品に広く使われることになるため、過剰摂取のリスクが増します。
引用
HPMCは、体内動態に関する試験の結果から、ほとんど体内に吸収されないと考えられる。また、 毒性試験の結果から、本物質は遺伝毒性及び発がん性はなく、類縁の加工セルロースを用いた試験結 果を参考にすると生殖発生毒性も示さないと考えられる。毒性試験で認められた主な所見は、難消化 性の食物繊維を大量摂取した際にみられるものと同様、軟便等の消化管への軽度な影響であり、ヒト に高用量のHPMCを投与した場合でも特段問題となる影響はみられなかった。これらのことから総 合的に判断すると、本物質は極めて毒性の低い物質であると考えられる。 さらに、限られたデータではあるが、既に使用が認められている海外における使用量と反復投与試 験の結果から得られた NOAEL との乖離も大きい。 なお、本物質は、わが国において既に食品添加物として一部の食品に使用され、また医薬品分野で も使用経験があり、これまでに安全性に関して特段問題となる報告はない。 JECFA では、HPMCを含む 7 種の加工セルロースについて、1989 年に「ADIを特定しない」と 評価している。 以上から、HPMCが添加物として適切に使用される場合、安全性に懸念がないと考えられ、AD Iを特定する必要はないと評価した。
基本的にリスクはないと言われていますが、1日3カプセル摂取するだけの生活と、毎食HPMCが含まれている食生活を送るのとでは後者のほうが断然リスクは高まります。他の摂取成分との兼ね合いでどんなリスクが生じるか分かりませんが、ヒプロメロース:HPMCは基本的に化学的にも不活性なため、体内でもほとんど反応はできないと考えられます。
それでも、こうしたヒプロメロース:HPMCを過剰に摂取すると多糖類の過剰摂取にも似た下痢や緩下作用などが起こる可能性はあるため、大きな危険はありませんが、全く無視しておいて良いものではないでしょう。
ヒプロメロース:HPMCの推定消費量
このHPMC:ヒプロメロースは、体重50kgの人であれば1日あたり6.85mgほど摂取していると考えられています。
引用
参考までに、国内における 2003 年の医薬用のHPMCの消費量は 320 トン/年であり、保健機能 食品のHPMC消費量は極めて少ない(≒0 トン/年)ことから、医薬用のHPMCの消費量をもと にHPMCの一日推定摂取量は、次の計算式より、0.137 mg/kg 体重/日と推定される。
(計算式) 320 トン ÷ 365 日 ÷ 1.28 億人 ÷ 50 kg = 0.137 mg/kg 体重/日(参考)
人間がHPMCを安全に摂取できる量は?
人間においてどの程度摂取しても安全なのか判断するにはデータが不足していますが、犬一匹の平均体重9kg(柴犬で仮に計算)に対して1日225gのHPMC:ヒプロメロースを30日間与え続けても健康上問題は起きなかったようです。
人間ベースで単純計算すると、体重50kgの人は1日1250gものHPMCを30日間継続摂取しても問題は起きないと言われているのと同じですが、さすがにそんなに味のないHPMCを大量に摂取するのは難しく、それだけ多く摂取しようとしたらさすがに身体が途中で受け付けなくなるでしょう。
ちなみにサプリメント1粒の重さが370mgから510mgであるため、サプリメントを毎食3粒摂取したとしても摂取できるHPMC上限重量は
(計算式) 510mg × 1食3粒 × 3食 = 4590mg
となります。HPMCは基材として利用されるだけで、この重量よりもかなり軽くなるため、この半分以下くらいしか摂取することにはならないでしょう。
引用
1群2匹のイヌに体重1kg当り 0.1, 0.3, 1又は3gのヒドロキシプロピルメチルセルロースを1年間投与したが、体重、臓器重量、尿及び血液検査ならびに組織の顕微鏡所見に異常は見られなかった。別のイヌに体重1kg当り25gを30日間投与しても異常はなかった。更に増量し、体重1kg当り50gを30日間投与したイヌでは軽度の下痢、体重抑制及び赤血球の減少が認められた。1)(Hodge et al., 1950)
1群雌雄各2匹のビーグル犬に低粘度(粘度;10 cP)のヒドロキシプロピルメチルセルロースの 0, 2又は6%含有食を90日間与えた。死亡率、体重、摂餌量、尿検査、血液学的及び血液化学的検査、臓器重量、組織の肉眼的及び顕微鏡検査に異常は認められなかった。1) (McCollister et al., 1973)
1群雌雄各4匹のビーグル犬に低粘度(粘度;4.22 cP)のヒドロキシプロピルメチルセルロースの 0, 1又は5%含有食を90-91日間与えた。死亡率、体重、摂餌量、尿検査、血液学的及び血液化学的検査、臓器重量、組織の肉眼的及び顕微鏡検査に異常は認められなかった。1) (Schwetz et al., 1973)
カプセル中にどれくらいHPMCが入ってるの?
ここで、カプセルの中にどれくらいHPMC:ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロースがどれだけ含まれているか計算してみましょう。前述のカプセル1つの重さは内容成分を含めて最大でも510mgほどとされておりますが、カプセルそのものは150mg未満の重さしかありません。
引用
含有量
161.33mg[アレクチニブとして150mg]
添加物
内容物:乳糖水和物、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム
カプセル:ヒプロメロース、カラギーナン、塩化カリウム、酸化チタン、カルナウバロウ、トウモロコシデンプン
こちらは中外製薬が発表しているカプセルの医療従事者向けデータです。このデータを見る限り、カプセル全体は161.33mg、その添加物として「ヒプロメロース」が含まれているくらいで、非常に含有量は少ないものと考えられます。
カプセルの主成分はヒプロメロースですが、空っぽのカプセル重量はその大きさによって30mgから120mg程しかないため、1日に9粒摂取したとしてもHPMC:ヒプロメロースは270mgから1080mgまでしか摂取していないことになります。
この量は、犬に対して行ったHPMC摂取実験で与えた量の1/225ほどの量しかありません。この量の摂取で人体に害があるというのは考えにくいでしょう。かといって、サプリメントのカプセルが絶対に安全というわけではなく、他のカプセルの添加物も気をつけて安全に摂取するよう常に心がけましょう。
参考文献など
参考「日本医薬品添加剤協会」
http://www.jpec.gr.jp/detail=normal&date=safetydata/ha/dahi5.html
参考「ヒプロメロース」
https://www.pmda.go.jp/files/000212742.pdf
参考「<旧局方名:ヒドロキシプロピルメチルセルロース>」
http://www.metolose.jp/pharmaceutical/tc-5.html
参考「ChEMBL:Compound Report Card」HYDROXYPROPYL CELLULOSE
https://www.ebi.ac.uk/chembldb/index.php/compound/inspect/CHEMBL1201471
参考「ヒドロキシプロピルメチルセルロースの使用基準改正に関する添加物部会報告書(案)」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/dl/s0622-4d.pdf
参考「サプリメント開発におけるハードカプセル製剤設計」
http://www.capsugel.co.jp/files/pdf/FOOD%20STYLE21,%2021(1),%2070-73(2017).pdf
参考「中外製薬:アレセンサ カプセル 150mg」
https://chugai-pharm.jp/hc/ss/pr/drug/alc_cap0150/sp/ppi/index.html
参考「三生医薬株式会社:ハードカプセルとは」
http://www.sunsho.co.jp/healthfoods/hardcapsule/
1) WHO Food Additive Series No.26 Modified cellulose. The 35th meeting of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives(JECFA). Wld Hlth Org., Geneva 1990. (accessed ; Nov. 2003, http//www.inchem.org/documents/jecfa/jecmono/v26je08.htm)
2) Obara S, Muto H, Kokubo H, Ichikawa N, Kawanabe M, Tanaka O. Studies on single-dose toxicity of hydrophobically modified hydroxypropyl mrthylcellulose in rats. J Toxicol Sci 1992; 17: 13-9
3) Obara S, Muto H, Shigeno H, Yoshida A, Nagaya J, Hirata M, Furukawa M, Sunaga M. A three-month repeated oral administration study of a low viscosity grade of hydroxypropyl mrthylcellulose in rats. J Toxicol Sci 1999; 24: 33-43
4) Robert Y, Gloor B, Wachsmuth ED, Herbst M. Evaluation of the tolerance of the intra-ocular injection of hydroxypropyl methylcellulose in animal experiments. Klin Monatsbl Augenheilkd 1988; 192: 337-9
5) Obara S, Muto H, Kokubo H, Ichikawa N, Kawanabe M, Tanaka O. Primary dermal and eye irritability tests of hydrophobically modified hydroxypropyl methylcellulose in rabbits. J Toxicol Sci 1992; 17: 21-9
6) Obara S, Maruyama K, Ichikawa N, Tanaka O, Ohtsuka M, Kawanabe M, Niikura Y, Tennichi M, Suzuki A, Hoshino N, Ohwada K. Skin sensitization and photosensitization studies of hydrophobically modified hydroxypropyl methylcellulose in guinea pigs. J Toxicol Sci 1998; 23: 553-60
7) Obara S, Muto H, Ichikawa N, Tanaka O, Otsuka M, Kawanabe M, Ishii H, Niikura Y, Komatsu M. A repeated-dose dermal toxicity study of hydrophobically modified hydroxypropyl methylcellulose in rats. J Toxicol Sci 1997; 22: 255-80
8) Schimmelpfennig B. In vitro studies of the tolerance of hydroxypropyl methylcellulose(HPMC) with regard to the human corneal endothelium. Klin Monatsbl Augenheilkid 1988; 192: 668-71