人が消化できないワックスエステルの安全性評価【バラムツ・ハダカイワシ】不飽和脂肪酸
ものすごくおいしいのですが、バラムツ・ハダカイワシ・アブラソコムツなどの魚には、人間では消化できない不飽和脂肪酸ワックスエステル(R1COOR2)なるものが多く含まれており、食べ過ぎると悲惨なことになり、社会的に苦しい立場に追い込まれます。ここでは、そのワックスエステルなどの安全性を評価、何がダメなのかまとめました。
アブラボウズ=ワックスエステルと捉えられる箇所については修正いたしました。アブラボウズ=トリグリセリド、及び、食べすぎによる下痢のリスクについて追記しました。下痢を侮らないこと、また、調理方法によってはアブラボウズは、自己責任の元、ある程度は安全に食べることはできます。
バラムツ(食用禁止)・ハダカイワシ・アブラソコムツ(食用禁止)などには通称ワックスエステルなる脂肪酸が含まれますが、アブラボウズ(食用可・注意)の場合はトリグリセリドが主に含まれています。どちらも食べ過ぎれば下痢となり、決して侮って良いものではありません。
コメントでご指摘頂きました内容について、アブラボウズはトリグリセリド主成分(それ以外も含まれる|ワックスエステルがゼロではなく注意喚起の旨としては未記載は不適切と判断)ですが、トリグリセリドを多く摂取しない方が良い方もおり、トリグリセリドも食べ過ぎれば下痢を招きます。ギンダラ科のアブラボウズの厚生労働省の自然毒リスクプロファイルに登録(リンク)されておりますので、アブラボウズは大丈夫、ということはありません。各自の体質や摂取量について、自己責任の範囲となります。
食べている方々の事例
ここではハダカイワシやバラムツを食べることに挑戦した方々に敬意を表して取り上げさせていただきます。合掌。
こちらの方々は危険性を理解した上で解体や実食をしているようなので安心ですが、一度に4切れも5切れも食べたら数日はお尻が大変なことになる上に食中毒のような症状が出ることもありますので、ご注意ください。
加熱した所で、結局消化できない油が残ってしまいますので、食べないか、少量のみ食べるくらいにしましょう。
ワックスエステルとは
C10~C12以上の長鎖脂肪酸、C8以上の脂肪族アルコールがエステル結合してできた物質で、皮脂腺で作られる脂質の主な成分とされています。アシネトバクター属、カイアシ類、ミドリムシでも貯蔵が行われています。植物だとホホバオイルがこのワックスエステルに分類されます。
別の名称で例えればろうそくの「蝋(ろう)」です。アブラボウズの場合は、トリグリセリドという脂肪酸構造で、若干オレイン酸(C18)に近いともされています。アブラボウズのトリグリセリドは
アブラボウズのトリグリセリド[1]:栄養価も高く毒性はない。
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_08.html
少量のみ食用可です。
アブラソコムツ、バラムツはオレイン酸を主流にセチルアルコール(パルミチルアルコール|C16)とオレイルアルコール(C18)が含まれた構造をしているようです。
ワックスエステルの安全性評価
症状は下痢
これと言ってひどい毒性はありませんが、厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル」に記載されている内容では「下痢」が主な中毒症状です。肛門で防ぎきれない下痢になって、漏れ出してくるという時点で、毒よりも怖いですが。全力で閉めても出てくるらしいです。漏れちゃう感じ?
マウスの実験(参考)
アブラソコムツおよびバラムツの筋肉またはアセトン抽出油(約90%がワックスエステル)をラットに投与すると(投与量は筋肉では7.5 g/日、アセトン抽出油では1.5 g/日)、油が皮膚からしみ出す皮脂漏症(セボレアseborrhea)が2日でみられた。最初は口や腹部が油でぬれたようになり、日が経つにつれて全身に及んだ。皮脂漏症とあわせて下痢もみられ、大部分のラットが1週間程度で死亡した。
参考:https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_08.html
厚生労働省のページに記載されている内容に従うと、ラットにワックスエステルと注射したら、皮膚や口、腹部などが油っぽくなり、全身性の皮脂漏症となって死亡したとあります。ラットの体重記載がないのでいまいち致死量はわかりませんが、人間でも食べすぎると下痢などを引き起こして、不健康、栄養失調、脱水症状などの症状を起こす可能性があります。
バラムツは1970年、アブラソコムツは1981年に食用として流通させるのは禁止されているようですが、自身で釣り上げてしまったものを、自己責任で、お金で取引なども一切せず食べて見る分には罰せられることはないですが、やめておいたほうが良いでしょう。
食事で分解はできないのか
無理っぽいです
何かと食べ合わせしたら多少は分解できるんじゃないかと思いましたが、見つかりませんでした。本当に見つかりませんでした。おそらく誰も試せていないんだと思います。
- しょうが
- にんにく
- ヨーグルト(乳酸菌)
- 納豆(枯草菌)
- お酢(酢酸)
- 黒酢(酢酸など)
- お茶(カテキン)
などでなんとかなんないかなぁ、と思って調べましたが、わからなかったです。すごく悔しいので、私の体で試してみたいくらいです。
でも、バラムツやアブラボウズはこのワックスエステルやトリグリセリドをエネルギー貯蔵のために蓄えているので、ゆっくりと分解する手段を持っているはずです。バラムツの内蔵になにか学べることがありそうだなとは思います。
で
ここからは私の研究というか、予測です。いずれ私自身で実験します。脂質分解酵素の働きを高めればワックスエステルも分解されやすくなってくれて、多少なり下痢、社会的にさよならコースは辿らないで済むと思います。知らずに食べちゃった場合も以下の酵素が多く含まれるものを食べれば、もしかしたら、下痢症状は軽減できるかもしれません。
- パイナップル
- 大根おろし
- すりおろし「きゅうり」
- 多めに白湯を飲む
さらに、脂肪分解酵素リパーゼを多く含む食材を食べたら、ちょっと良くなるかもしれません。
- 明日葉
- ほうれん草
- グレープフルーツ
- ズッキーニ
- トマト
- ラディッシュ
- パプリカ
これらをできるだけ生で食べたほうが酵素が壊れにくくて、小腸にも届きやすくなると思います。実験してないのでわかりません。
実験に備えて
以下、実験を行う際に必要なものと手順をメモしておきます。いずれやります。
- バラムツの刺し身を入手。
- 食べてみて、下痢になってみる。
- 下痢するまでの時間を測定。
- すりおろした「きゅうり、だいこん、トマト」を用意
- それぞれのジュースにバラムツの刺し身を投入。
- 食べてみる?
- 下痢になるかチェック。
- すりおろさなくてもいけるかチェック。
- 36度くらいの環境(人体に近い?)で1日放置
- カルボン酸とアルコールができているかチェック
- 可逆な気がするのでカルボン酸と反応しやすいなんかを入れとくとか
- 塩素系の何かとアルコールを反応させちゃうとか
たぶん、食べ過ぎちゃったら多めにお湯でも、お酒でも飲んで、お腹の中から1日でも早く出し切っちゃうのが早そうですが。
ワックスエステルヒドロラーゼで分解できる
ワックスエステルは、酵素|ワックスエステルヒドロラーゼ(Wax-ester hydrolase)によって分解が可能です。それでもワックスエステルと水を
- 長鎖アルコール
- 長鎖カルボン酸
A wax ester + H(2)O <=> a long-chain alcohol + a long-chain carboxylate
に分解するだけなので、あまり変化はないかもしれません。しかも、この酵素は一般の方では入手は難しそうなので、肛門から出ていくのを待ったほうが解消早いです。
出典:https://enzyme.expasy.org/EC/3.1.1.50
過剰摂取しなければOK
神経毒はなく、特段食べ過ぎなければ大丈夫です。マグロの大トロのような味わいだとのことで、食べてみたくなる気持ちもわかりますが、やめておきましょう。
肛門の管理ができなくなり、社会的に狂しい立場に立つか、お金をかけてマグロの大トロを食べるか、どっちかにしましょう。
アブラボウズの自然毒リスクについて
アブラボウズの主成分はワックスエステルではないのだから、アブラボウズに関する注意喚起を当ページで一緒にするな、というご意見をいただきましたが、今一度厚生労働省記載のページと、修正後の当ページをご確認ください。
厚生労働省のページにおいて、有毒種としてギンダラ科のアブラボウズ(Erilepis zonifer)が、中毒原因魚として掲載されております。ワックスエステルを全く含まないわけではなく、アブラボウズを危険視するな、ワックスエステルのページと一緒にするなと言うのは残念ながら却下です。
アブラボウズ=ワックスエステルと捉えられる箇所については修正いたしました。ご指摘頂きありがとうございます。
アブラボウズは肉は美味であるが、食べると肛門から油が滲み出るといわれている。
自然毒のリスクプロファイル:魚類:異常脂質
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_08.html
出典
ワックスエステル
Cakes|野食ハンターの七転八倒日記
厚生労働省|自然毒のリスクプロファイル:魚類:異常脂質
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_08.html
大阪府立大学|ユーグレナのワックスエステル合成系の代謝改変に成功 ~ユーグレナ由来バイオ燃料の生産制御への第一歩~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20150410/index.html
野食ハンマープライス|禁断の“ワックス美味い”魚「ハダカイワシ」
https://www.outdoorfoodgathering.jp/fish/hadakaiwashi/
マボラにおけるワックスエステルの合成と分解
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jos1956/38/5/38_5_394/_article/-char/ja/
引用(厚生労働省記載文献)
金田尚志: アブラボウズ体油の脂肪酸組成及びその栄養価について. 日水誌, 17, 15-19 (1952).
Mori M, Saito T, Nakanishi Y, Miyazawa K, Hashimoto Y: The composition and toxicity of wax in the flesh of castor oil fishes. Nippon Suisan Gakkaishi, 32, 137-145 (1966).
Mori M, Saito T, Nakanishi Y: Occurrence and chemical properties of wax in the iwiuscle of an african fish, Allocyttus verrucosus. Nippon Suisan Gakkaishi, 32, 668-672 (1966).
Nevenzel JC, Rodegker W, Robinson JS, Kayama M: The lipids of some lantern fishes (family Myctophidae). Comp Biochem Physiol, 31, 25-36 (1969).
Mori M, Saito T: The occurrence and composition of the occurrence and composition of wax in mullet and stockfish roes. Nippon Suisan Gakkaishi, 32, 730-736 (1966).