ALPS処理水の危険性と生態系への影響について【備忘録メモ】
本稿は、世間を賑わすALPS処理水、汚染水とは何なのか、また、ALPS処理水の海洋放出による化学的・物理的・生物的な影響はどの程度考慮されていて、数十年、数百年先までの事象を考えた時にどの程度のリスクが見込まれるかを、現状のデータなどに基づいて調査しまとめたものである。危険性と安全性についての判断は各自の科学的認識と気持ちの面が関わるものであるため、各自で判断してもらいたい。
関係する用語の簡単な解説と英語表記
以下、本稿の話を理解するのに欠かせない用語と説明を示しておく。話を理解するのに欠かせない用語なので最初に把握しておいてもらいたい。
LD50|Lethal Dose 50
化学物質の安全性を説明する時にたいてい出てくるもので、半数致死量ともいい、その実験においての被検体グループのうち、全体の半分(50%)の被検体を死亡させるリスクがある投与量のこと。LD100は完全致死量。ほとんどの場合は急性毒性の程度を判断するもので、長期的に継続して摂取した場合の毒性(長期毒性・慢性毒性)の判断とは別物扱い。
内部被ばく
放射性物質を、飲食、または、呼吸などから体内に取り込んだ場合の放射線被ばくのこと。特筆すべきはアルファ線、ベータ線は蓄積している内臓組織周辺に一定期間影響を起こし続けるため早期に排出するよう治療が必要となる。また、ガンマ線は蓄積している内臓組織以外にも影響を及ぼすため、これも内部被ばくは当然、外部被ばくも避けるべきである。
外部被ばくの場合は、アルファ線(ヘリウム(He-4)の原子核|重いので空気中では3cmから数十cmしか飛べない)、ベータ線(原子核から放出される電子|空気中では数十cmから数mしか飛べない)は体内にまで皮膚を超えて影響を及ぼすことはほとんどなく、放射性物質から距離を取ればひとまずこの2つは避けられるがガンマ線(電磁波)は避けられない。
※骨折した時のレントゲンで使われるX線とガンマ線は同じ電磁波に分類され、原子核の外からの刺激で発生するのがX線、原子核の内からの刺激で発生するのがガンマ線である。似ているがちょっと違うもので、どちらも浴び過ぎれば人体に悪影響がある。
毒性
化学物質の毒性には、その毒性が影響する部位等によって名称が異なり、急性毒性、慢性毒性、肝毒性、細胞毒性などがあり、刺激性や皮膚感作性、腐食性、発がん性、生殖毒性といったさまざまな分類がある。環境に対する有害性、水性毒性も毒性の一種である。
生態毒性
毒性の一種で、生物単体への影響だけでなく、生物群の属する生態系そのものへの影響を把握するもので、より長期間、大規模な検証が必要になるもので検証と正確な把握は難しいが、昨今の科学的な事情と技術力の発達を考慮すれば、検証しておくべき毒性である。農薬を扱う分野においてよく聞く用語である。
生物濃縮
化学物質が食物連鎖などの過程を経て、生物に蓄積されていくことを指す。疎水性で代謝されにくい化学物質でよく起こりやすい。食物連鎖と関係があるため、特定の環境において外来種の増加、在来種の減少なども影響する場合があり、フグ毒も生物濃縮によるものとされている。一定期間で分解される物質では生物濃縮は起こらない可能性が高い。生態系における濃縮には、分野の違いなどもあって、認識や形式が少し異なるものもある。
放射性物質
放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)などを放出する能力がある化学物質のこと。カリウム、セシウム、ヨウ素、ウラン、プルトニウムなどがこれに当たる。原子力発電の場合、ウラン235(3%)・ウラン238(97%)を分裂させて、ヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム239などになりつつ、ウラン235とウラン238で連鎖反応を起こさせることでエネルギーを出し続けさせる感覚で使用されている。
※原子爆弾はウラン235をほぼ100%で核分裂させるもの。
放射能
放射線を放出する能力のこと。物質により、強い放射能があるものと弱い放射能のものがあるが、これはその放射性物質が放出しうる放射線がベータ線程度しかないトリチウムなのか、ウラン235なのかで異なるということである。
放射線
アルファ線(ヘリウム(He-4)の原子核)、ベータ線(電子または陽電子)、ガンマ線(10pmより短波長の電磁波)、X線(ガンマ線より波長が長い電磁波)、中性子線等のこと。波長そのものの説明は高校物理の学習に譲る。紙を透過できるかどうかで語られることもあるが、紙質や紙の厚さ・材質で変わる(ティッシュは紙か否か)可能性があるため不適切で、ここではその例えは用いない。
ベクレル(Bq|Becquerel)
放射能の単位で、放射線を出す能力のこと。測定地域と物質によって認識が異なる場合はあるが、CNICの2021年度の測定によると、宮城県4.4 mBq/kg(セシウム134)と152mBq/kg(セシウム137)、静岡県16mBq/kg(セシウム137)であったとの報告があった。食品に含まれる放射性セシウムは50Bq/kg以下と基準値が定められている。
ICRP基準では、セシウム137を摂取する場合の影響は「含有量(mBq/kgまたはBq/kg) × 食べた量(kg) × 0.000013(実効線量係数)」で算出可能とされている。含まれている量と食べた量で一応は測定できる。
※自然界や食事などから得る細胞や身体の損傷があっても、人体には再生能力があり、微量の損傷は回復されるため、多くの場合はがんを招く可能性は少ないが、たばこや飲酒、ストレスなどが複合的に重なって、正常な回復を阻害したり、がんを誘発したりする場合はある。放射性物質や放射線量だけが原因ではない。
シーベルト(mSv|sievert)
放射線を被爆(被ばく線量)する単位のこと。1,000,000マイクロシーベルト(µSv)=1,000ミリシーベルト(mSv)=1シーベルト(Sv)である。500ミリシーベルト(mSv)で白血球の減少が始まり、1000ミリシーベルト(mSv)=1シーベルト(Sv)で健康上の自覚症状があるとされている。4シーベルト以上も浴びるともう回復は不可能になるとも言われている。自然界からは年間約2ミリシーベルトを被ばくしている。
計算を単純にするために出典リンク(こちら)の「1kgあたり524Bq(セシウム134とセシウム137半分ずつと仮定)のほうれん草100g経口摂取で0.84マイクロシーベルト(µSv)」の被ばくをしていることになる。ヨウ素の場合は、ほうれん草100g経口摂取で24.03マイクロシーベルト(µSv)の被ばくとなる。
※セシウム134の変換係数(0.019µSv/Bq)
※ヨウ素I-131の変換係数(大人で0.016µSv/Bq)
ほうれん草100gの経口摂取で約25µSvの被ばくをしているが、これを1年間(365日)続けると、9,125µSv(約9mSv)となる。通常の世帯において、ほうれん草の年間消費量は約3kg(3000g)であるため、実際はほうれん草100gの30倍として考えて、750µSvがほうれん草の経口摂取による年間被ばく量であると考えられる。これは健康にほとんど害はないと考えられる。
海水
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/sokkou-kaiyou/75/vol75s105.pdf
「気象庁による海水の全ベータ放射能観測について(リンク)」より、日本近海の海水に含まれている”天然の放射性核種に由来するベータ線”の測定結果は、1996年移行は0.04-0.07Bq/Lの範囲にあった。ただし、これは平常時のモニタリングには良いであろうとされる「鉄-バリウム共沈法」による測定で、データとしてはあまり参考にはならない。
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-07-08-02.html
環境省のページより「原子力規制委員会海洋モニタリング結果(リンク)」では、事故直後は100,000Bq/L以上に到達、1年半後には10Bq/L、2023年現在は1Bq/Lまで下がり、海底近くでは0.008Bq/L、陸地から30km離れた地点では放射性セシウムは0.001Bq/Lまで下がっていると言われている。
https://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2016/images1/handouts_160401_05-j.pdf
このデータの採取位置は上記画像とリンクにある位置である。サンプリング位置、検出された物質(ヨウ素やセシウムが多い|詳細はリンク先で公開されているCSVデータを参照)などから、自然界に存在している放射線量を大幅に超える状態ではないと考えられる。が、どんな実験データでも同じことだが、これは公表されているデータを信用できれば、の話である。
汚染水
原子力発電所において、ウラン235とウラン238の燃料棒(それに類するもの)が、事故で溶けて固まってしまったのを冷やすのに使った高濃度の放射性物質を含んでいる水のことで、蒸気の核種等が含まれる水(ALPS処理水とは別物)。世間で言う汚染水のイメージは、海水をそのまま燃料棒にぶつけて冷却し、外に排出しているというイメージが多いようだが、化学的に見るとそれはできない相談である。海水にはナトリウムやマグネシウムの他、貝類、藻類、プランクトンなどの他、さまざまな化学物質が電解質状態で混ざっているようなもので、それをウランに直接触れさせるのはどうがんばっても無理がある。そういうものではない。
原子炉には、燃料棒を冷やすための専用の水があり、燃料棒で水を温めて水蒸気にして、その水蒸気の勢いでタービンを回して発電する。発生した水蒸気は、結露のような感覚(復水器の所)で、海水を頼りにした冷却装置(リービッヒ冷却のような感覚)で水蒸気を水に戻して再び燃料棒のところで温めて…と繰り返して発電を行う。
地震や津波でこの海水を用いた冷却装置が壊れると、海水は冷やす効率はよくないし、色々混ざっているしでうまくいかなくなり、なんやかんやあって事故が起きる。(事故の詳細はここでは関係ないので詳しく説明しない。)
この燃料デブリを冷やすために使用した水(海水かもしれないし、雨水かもしれないが冷やしたあとはそのままは捨てられない水)が汚染水で、ずっと保管され続けていて問題になってきていて、ALPS処理水という形にしてなんとかしようという苦肉の策へと進んでいる。
ALPS処理水
ALPS:多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System)といい、ALPS処理水では放射性物質(カリウム、セシウム、ヨウ素、ウラン、プルトニウムなど)を、検出限界値未満、または、ほぼ0に近い検出値になるまで複数回処理したもの(捏造・虚偽・偽装・人為的ミスがなければ)で、含まれる放射性物質はトリチウムのみと考えてもよい。
世間のイメージでは、ろ過や除去をしていても「一度汚いものに触れたものは穢れである」という感覚が強くあり、放射性物質と放射線との触れ合いもほとんどない上に、目に見えないため深刻な話題になっている。気分的になんか嫌、というのは世間の感情としてはあって当然で、化学的に問題はないと考えられる状況で、生態毒性的にもおそらく問題はないかもしれないという状況でも、ゴキブリを好きになれないのと一緒で嫌なものは嫌、という意見が出るのは仕方がないことである。これは科学で押し付けられるものではなく、政治的に強制してよいかというとそうとも言い切れない問題である。ここでは議論は求めないし、本稿の趣旨に反するので触れないこととする。
トリチウム(3H)
陽子1個、中性子2個を持つ三重水素のことで、半減期は12年ほど、ベータ線(18.6 keV以下)を放出するがベータ線(電子や陽電子)はそれほど切羽詰まって危険なものではなく、たいていは避けることができる。自然界ではトリチウム水(HTO(1H3H16O))という状態で実はそこそこ普通に存在し、茨城大学の水道水中には0.4Bq/Lのトリチウムが含まれていたとのこと。トリチウムを水の状態で経口摂取した場合の実効線量係数は1.8×10-8mSv/Bqで、セシウムの1.3×10-5mSv/Bqよりも少ないため、その分ダメージも少ない。日本人は、1日に1Bq/Lほどのトリチウムを経口摂取していることになる。
トリチウムの場合「含有量(mBq/kgまたはBq/kg) × 食べた量(kg) × 0.000000018(実効線量係数)mSv/Bq」となる。
https://www.dei.or.jp/seminar/seminar_221025_02_dl/data/seminar_221025_02_01.pdf
トリチウム水(HTO(1H3H16O))は、通常の水と構造が同じで、トリチウム水(HTO(1H3H16O))だけを取り出すことは現在の科学技術では実現できない(この処理のためだけに5000兆円使えるならできるかもしれないが)。燃料棒を直接冷やしている冷却水にはトリチウム水(HTO(1H3H16O))が生まれる可能性があるが、蒸気になった炉内の水蒸気を冷やす海水(燃料棒に触れない冷却水)が大量にトリチウム水(HTO(1H3H16O))になる可能性は低い。
宇宙から地球に降り注いでいる宇宙線の影響で、トリチウムは自然界で普通に生成されるが、崩壊と生成の平衡状態があり、常に変化している。世間の想像よりも身近に存在する物質である。と言われているが、これは科学的にきちんと疑問に感じて検証すべきことである。トリチウム水(HTO(1H3H16O))だけを取り出せないということは、トリチウム水(HTO(1H3H16O))だけを検出・分離はまだ完全にはできていないということでトリチウムに関する現代の科学技術が追いついていると断定できるかどうかは分からない。(詳細は各自、液体シンチレーションカウンタなどで調べてもらい、ここでは割愛する)
トリチウム水(HTO(1H3H16O))は、外部被曝の心配はそれほどないが、トリチウム水(HTO(1H3H16O))が高濃度の水蒸気の吸入、高濃度のトリチウム水(HTO(1H3H16O))の飲用は内部被ばくを起こすと考えて良いが、被ばく量よりも回復力の方が上回る可能性が高い。
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230825007/20230825007-1r.pdf
経済産業省のページでは、東京電力ホールディングス株式会社の調査が発表されており、トリチウムを含むALPS処理水を2023年8月24日に既に放出し、海に流す直前の段階では分析値160Bq/L(1.6×102|1.6E+02)だったとのことで、1,500Bq/Lを下回っている必要があるとのこと。自然に存在しているトリチウム量に比べると、事実としてかなり多い。
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230825007/20230825007-1r.pdf
放出地点から3km離れた場所では、検出限界を10Bq/L程度にした状態で測定すると約4.6~8.1Bq/Lのトリチウム量だったとのことで、この3kmの地点では700Bq/L以下で放出停止、350Bq/Lでは調査が必要なレベルであるらしい。この時点でトリチウムの放出量としてはかなり少ないとは言えるが、トリチウムそのものは放出されていて、放出地点ではトリチウム量も当然多いのは事実である。
この量を「含有量(mBq/kgまたはBq/kg) × 食べた量(kg) × 0.000000018(実効線量係数)mSv/Bq」に当てはめて計算(水1Lを1kgとする)すると、放出地点から3km離れた場所の海水をそのまま純水に置き換えて、トリチウム量は検出された一番大きい数値にして、1日2Lそれを飲むとすると
8.1(Bq/L) × 2L × 0.000000018 = 0.0000002916(mSv)
8.1(Bq/L) × 2L × 1.8×10-8 = 29.16×10-8(mSv)
となる。この薄まった状態のトリチウム水を1mSvとなるように摂取するには、3,429,355倍の水を飲む必要があり、全量で6,858,710L=6,858kL(約6900t)の水を摂取する必要がある。1年間毎日2Lペースで飲み続けると被ばく量は
0.0000002916(mSv) × 365日 = 0.000106434(mSv)
となり、被爆に関しては、人間はほとんど気にしなくて良い数値となる。(計算あってる…?)
ALPS処理水放出後に採取した海水のトリチウム濃度の分析結果を公表します|経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230825007/20230825007.html
現状の問題点と未解決の疑問
医工融合分野を履修している者は非常に少ない上に、化学・物理・生物を研究レベルで現場で体験していない者の方が多いため、一般市民はなんとなく不安、なんかやだという理由で特定の事象を拒否するのは当然の反応である。科学を学んだ者であっても、意見や考え方は全く異なるものになるケースは多々あるため、どちらが正しいかを決定すべき問題ではなく、問題を理解した上でどう進むべきかを考えるのが本稿の目的となる。
以下、現在の状況が抱えている課題をまとめ、どうすれば解決できると思われるかまとめたものである。ここにあるものだけでなく、他のさまざまな宗教・国・組織・団体の思惑や社会的な影響などが関わってくる問題であるため、ただひとつ正解があるとしたら「絶対これが正しい、という判断をすべきではない」ということである。
微生物群への影響が不明瞭
海には、所狭しと生き物や植物が存在していて、都合よくトリチウムが薄まった場所だけに生き物が住んでいるわけではない。海洋放出した地点ではトリチウムの量は160Bq/Lもあって、通常の原子力発電所も何もない海のトリチウム量に比べるととんでもなく多い。人間が勝手に決めた基準値と枠組みの中では問題ないかもしれないが、ヨウ素のソレが母親と乳児では体や臓器の大きさの関係で、健康に与える影響が全く異なるのと同じで、微生物やプランクトン、藻類、稚魚、幼魚にどういう影響を与えるのか、明確に安全だと言えるデータはない。
The activation of microbial functions in natural reservoirs by low tritium concentrations can cause unpredictable changes in food chains and imbalances in the natural equilibrium. The incorporation of tritium from the free form into organically bound compounds mainly occurs in the dark and at a temperature of 25 °C. When tritium is ingested by marine animals, up to 56% of tritium is accumulated in the muscle tissue and up to 36% in the liver. About 50% of tritium in the liver is bound in non-exchangeable forms.
低いトリチウム濃度による自然な貯水池内での微生物の活性化は、食物連鎖に予測不可能な変化をもたらし、自然の平衡を崩す可能性があります。遊離形態からのトリチウムの有機結合化は、主に暗闇で、温度25°Cで発生します。海洋生物がトリチウムを摂取した場合、最大で56%が筋肉組織に、最大で36%が肝臓に蓄積されます。肝臓内のトリチウムの約50%は、交換不能な形態で結合しています。
人間にとって害がないことは、生態系の微生物にも影響がないとは言えず、この場合は何かしら影響があると考えて科学的検証をすべきである。トリチウムそのものが生物濃縮しないから、それだけで良いわけではないのは誰でも分かると思う。
特定のプランクトンや微生物が突然変異をすれば、その食性や活動にも変化が出るのは当然で、その変異によって、特定の微生物やプランクトンが毒性の強いものを体に持つようになり、それがフグ毒のように、人間が食べる魚にも起こるようになって、これまでは毒を持たなかった魚や貝類(大量の海水をろ過するものがいる)が毒を持つようになった場合、誰が、どのように責任を取れるのか。
全く研究もされていないし、責任も取れないのに、責任は負うと言い張っている政府や団体がいる。これは危険性をはらんでいるのに、それをきっと無視できる…としてきちんと研究をしていないということで、非常に問題である。
アメリカも中国もフランスも大量の処理水やゴミを海に捨てており、もちろん日本もそこに参戦することになっている。SNS上の多くの人が、化学的には大丈夫、人間的には大丈夫、と考えているが、生態系への影響については考えが及んでいないのは残念だ。この影響は必ず私たち全員に返ってくる。
海にいる寄生虫や微生物にどういう影響を及ぼすのか、何も明らかになっておらず、これから先の時代の子どもや孫の時代に責任をなすりつける形になるだろう。
安全基準の「基準」が正しいことの証明不足
ここまでの記述で説明したように、化学的には、濃度の問題はなさそうだとする人間勝手な都合で決めた基準値の中にはあるが、微生物やプランクトンなど生態系に対しての懸念事項まで払拭できる基準かどうかは残念ながら不十分な数値である。自然界に元々存在しているのだから、人間都合で、追加で増やして捨てて良いという理論にはならない。
自然界は絶妙なバランス(平衡)で成り立っている。そのバランスが取れている状態に対して、バランスを崩す方向に人間が勝手な都合で平衡を崩すのだから、影響があると考えて研究するのが本来の科学の役目である。自然界は人間が思うほど弱くはないが、人間が思うほど自然は人間に優しくもない。
海にゴミを捨てることへの反感
一部の人はALPS処理水は流しても良さそうだと言いながら、マイクロプラスチック等が海にあるのは問題だ、とか、海水浴に行って海が汚いと嘆く。完全に二律背反で自分の意見を統一できていない人が増えている。海に限らず、山にも川にもゴミを捨ててはいけないことだと分かっているのに、発電の話になれば生活に必要で、もう後戻りできないことなのだから…と放出を何の抵抗もなく受け入れた。
トリチウムの認識が間違っている一般人を攻撃し、煽りながら、ALPS処理水の放出を受け入れている者もおり、これに関しても非常に残念な事象だ。一般人は化学の話など理解しないのは当然なのだから、分かっている、または、分かっているつもりなのならば、せめてきちんと説明しながら、丁寧に理由付きで話すべきだ。煽って相手の怒りを買い、議論や歩み寄りの余地をあえてなくしていくスタンスは、世の中を二分するだけで何も良い方向に進まない。
無知であることを煽って弄り倒し、まるで自分が正しくて多数派であると勘違いして自然を怪我して大喜びしている者がいる。他の不可逆の事象や、自分の目の前で直接実害があることについては躊躇するのにも関わらず、とんでもなく残念な状況が世の中全体に広がっている気がする。
海外の汚染水廃棄と環境への影響の実情
本稿の調査にて、中国やフランスやアメリカの状況も深掘りして調べたが、日本の現場の状況はかなり慎重に取り組んでいるように思える。少なくとも、日本はもう海外の方が多くトリチウムを放出している!と煽って反論することはできなくなったし、海外の自然保護に対する意識の低さもなかなかのもので、もはや完全に後戻り出来なくなっていることもよく分かった。
地球上の多くの自分勝手な人間は、地球は人間のものだと思いこんでいて、汚しても別に構わないというスタンスで生きている。そういう者とは相容れないし、そういう者から先に消えていって、せめてギリギリ生きていけるくらいの環境を後世に残してほしい。環境を大切にしないとマズイと理解している者もどこの国にもいるが、ある程度教育レベルが高く、冷静かつ丁寧に議論や意見交換できるレベルの者しかいないようで、とても数は少ない。
自然界の動物の絶滅や天候の変化、気温の変化は終わりの始まりに過ぎないのだろう。少しの理解も示さない自分勝手な人間のせいで、まじめな人間は責任を負わされてしまう。
政府・政治への潜在的不信感
マニフェストの詐欺、虚偽・捏造などを平気でする議員や政治家が増えすぎていて、公的機関を信用できなくなっている。外務省や経済産業省、厚生労働省がALPS処理水について、さまざまなロビー活動のようなことをネット上で展開しているが、気持ちが悪いのは、科学的な検証データや生態系への影響についての検証結果が出されていない点。口先で、Aという人が許可したから、Bという団体が認めたからと安全だ、安全だと言っても、実際の数値でその事実を見せてくれない。それでは不安は払拭できない。
自然界よりもトリチウムの濃度が高い海域での生態系への影響についても、日本人の専門家を自称する者がデータを持っていないのがそもそも問題である。科学であれば、影響がどの範囲まではあって、どの範囲からはないかを検証しているべきである。海の微生物や寄生虫、貝類などに関してのそういったデータはほぼ見当たらない上に、種族ごとに比較したり、海水の成分と混ざりあった場合の影響ですら検証されていない。
化学的(Chemical的)には問題なさそうだが、生物学的、微生物学的にはなんとも判断できない状況であるのに、処理水は押し通されてしまっている。中国やフランスなど、既に海にゴミを捨てている国は言語道断で、今回の日本の件に文句を言う資格はない。先んじて海にゴミを捨てて汚染を広めていたのだから、まるでアフリカの近代化に伴って二酸化炭素の排出を抑えるように文句を言うどっかの国みたいである。
海はゴミ捨て場ではない(個人的に明確にしておきたいこと)
ALPS処理水に限らず、海、山、川に区別を付けず、自然界にゴミを捨ててなんとかしようとするやり方から卒業する必要がある。これまでの義務教育で何も学んでこれなかった層が多すぎて、残念な結果になっていることが非常に悲しい。どこぞの環境団体のような座り込んで車の邪魔をしたり、絵画や名画にペンキをかけるようなデモをする気はないが、自分の都合でやりたいようにやる、というスタンスを見せているでも団体は、皮肉にも、自分勝手に自然界にゴミを捨てている者たちと同じ(配慮なくキャンプ場にゴミを放置する人も、ALPS処理水を安易に受け入れてしまう人(キャンプ場へのゴミの放置には怒ってたりする不思議)も根っこは同じである)ことをしているんだなとなんとなく納得できる点もあることに気づく。どちらも迷惑だが。
海も山も川もゴミ捨て場ではないが、既に私達自身も間接的に地球を汚して生きてきた。今さら何ができるのかは分からない、何でリカバリーすれば良いのかも分からないが、自然界にゴミを捨ててはいけないという理念を貫き通すために、科学技術ももっと発展させる必要があるかもしれないし、地球上から人類がいなくなったほうがいいのかもしれない。
電気が必要なのは分かるし、発展の過程で失敗することがあるのも分かるが、あまりに横暴な進み方ではなかろうか…。
出典・参考
国際機関によるALPS処理水海洋放出の安全性確認|経済産業省
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/reports/02/
IAEA Review of Safety Related Aspects of Handling ALPS-Treated Water at TEPCO’s Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
https://www.iaea.org/sites/default/files/report_1_review_mission_to_tepco_and_meti.pdf
https://www.iaea.org/sites/default/files/report-2-review-mission-to-nra.pdf
https://www.iaea.org/sites/default/files/3rd_alps_report.pdf
https://www.iaea.org/sites/default/files/report-4-review-mission-tepco-and-meti.pdf
https://www.iaea.org/sites/default/files/5th_alps_report.pdf
Marine Monitoring: Confidence Building and Data Quality Assurance|IAEA
The Subcommittee on Handling of the ALPS Treated Water Report
https://www.meti.go.jp/english/earthquake/nuclear/decommissioning/pdf/20200210_alps.pdf
★Interlaboratory comparison 2021 Determination of radionuclides in seawater, sediment and fish
https://www.iaea.org/sites/default/files/22/06/2022-06-21_japan_ilc_2021_report_v4.2.pdf
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000867.html
★IAEA-RML-2014-01 Proficiency Test for Determination of Radionuclides in Sea Water
★IAEA-RML-2019-01 Proficiency Test for Determination of Radionuclides in Sea Water (preliminary report)
牛乳の放射能問題に関するQ&A(2012年6月)
https://www.j-milk.jp/knowledge/food-safety/berohe000000bsao.html
農畜産物放射能測定|JAEA
https://www.jaea.go.jp/04/ztokai/kankyo/kihou/kihou19_1/tokai/help/milk.html
微量に放射能汚染された飲食物の長期摂取に関して|JSNM
http://jsnm.org/press/fukushima/fukushima_log/fukushima_report04/
放射性物質汚染に対する農産物の安全検査について
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015mpx-att/2r98520000015muw.pdf
全国の牛乳に含まれる放射性セシウム濃度調査(2021年度)|CNIC
https://cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2022/03/6ba02c63a6f16969bf0bc2d973813272.pdf
「放射能(Bq:ベクレル)」から「被ばく量(Sv:シーベルト)」への変換について|東大病院放射線治療チーム
http://www.u-tokyo-rad.jp/data/bqsvhenkan2.pdf
Inventory and distribution of tritium in the oceans in 2016
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969718348034