川をきれいにする方法【学生向け学術研究】
学生の研究レポート向け「川をきれいにする方法」を学術的に研究、公的機関の発表などから正当な方法をまとめてあります。執筆者は山梨大学工学部生命工学科という生命系を卒業しており、その道には多少の理解があります。都市伝説や誤ったデマに惑わされないように、各自で方法を考えて行動していきましょう。
結論
川をきれいにする方法、自然環境の水質を改善する方法を結論から述べると以下のようになります。
- 川にゴミを捨てない
- 溜まった汚泥を放置しない
- タバコのポイ捨て等を絶対許さない
- 川のゴミ清掃ボランティアに参加する
- フードロスを減らす意識を高める
- 山奥等への不法投棄を絶対許さない
- 水のムダ使いを減らす
- 自然環境について学び続ける
今現在の現代人も自然界の水の力に頼って生きていますので、水のムダ使いが多いと、循環する水の総量に変化があり、本来流れるはずの水が減ってバクテリア等の生態系に影響を及ぼすと川は汚れやすくなります。
自然界にゴミを捨てないという件は、一見、関係ないように思えるかもしれませんが、不法投棄されたゴミから流れ出る汚染物質や、ポイ捨てされたタバコから染み出す良くない物質、その他の生態系に悪影響を及ぼすゴミや生ゴミなどを減らすと、巡り巡って川のきれいさが取り戻されるかもしれません。
また、時代の変化、人々の努力、治水や下水処理、浄水についての新しい挑戦・技術・環境で、よりよい環境を残そうと、多くの人が関わっています。自然環境についての常識が変わることも当然ありますので、学び続ける意識も大切です。
汚泥を放置しない点についてはシンガポールの事例を参考にしました。日本のように多く水があるわけではないため、どうしても出てくる汚泥をきちんと処理して循環させる工夫は、日本でも必要でしょう。大規模に地方自治体レベルでやらないといけない所もあるかもですが、自然では処理できないほどに川底にゴミが溜まってしまっていたら、人の手で取り除いてやっても良いのではないかと、思います。
【動画解説】東京都下水道局|東京都 Tokyo Metropolitan Government
こちらは東京都下水道局の「水をキレイにする小さな生き物たち」というタイトルの動画で、水をきれいする微生物に関する動画です。水質浄化の過程の一つとして大切な要素ですが、人の流す汚れが多かったり、薬剤、消毒液、洗剤などを川に流すと微生物は死滅して自然浄化追いつかなくなります。
前提知識
ここでは、私たち、現在人の生活排水と川の関係について、また、川の浄化に関係する「理科」分野の知識を先に解説します。
排水の種類と浄化
現代人の生活に関わる排水は、主に5つに分類されます。
- 生活系
- 事業系
- 農業系
- 面源系(道路の汚れ)
- その他(ポイ捨ての汚れ)
生活排水は一般家庭からのもので、化学or製造工場などからでるのは事業排水(重金属や毒物劇物を含む可能性)、農業で使用した農薬などが混ざることもある農業排水(農薬や肥料が混ざる可能性)などがあります。
国土交通省:きれいな川にする方法は?
また、下水道法上の排水の種類は次のように分けられます。
下水 | 汚水 | 生活事業排水 |
し尿を含む排水・雑排水 | ||
雨水 | 湧き水・降雪・雪解水 |
し尿を含む排水というのは「人の糞便等(うんちやおしっこ)」のことで、雑排水は洗面所・洗濯機・浴室・キッチンからの排水のことを指します。
排水設備(排水排除方式)には2つあり
- 合流式:雨水も汚水も一緒に下水道本管に流す
- 分流式:雨水と汚水を分けて処理する
分流式のほうがきれいな雨水はそのまま公共水域へ、汚水は下水処理場で処理できますが、水道管を多く設置しないといけないため、場所の問題、工事コストの問題が残します。
合流式は下水道管は1本で済みますが、汚水が雨水で希釈されるため、処理力の問題があるとかないとか。汚水の濃度が出て処理しにくくなる可能性もあれば、本来は川にそのまま流れる雨水を下水処理施設に送るため、近隣の河川が干上がる可能性(そんなこともないと思うが、水域が減る可能性はある)があります。
MAEZAWA:排水設備の概要
川を汚す排水とは
川を汚す要因となる排水は以下のようなものがあります。
- 川へのゴミのポイ捨て
- 設備の整っていない生活雑排水
- 除草剤や農薬混じりの農業排水
- 不法投棄と汚染物質流出
- 工場からの排水
このうち、工場からの排水は、近年はかなりシビアに対策が取られていますが、時折、処理不足のまま流されることもあります。ゴミの不法投棄や川へのたばこのポイ捨てなども河川を汚染する大きな要因で、近年市街地ではポイ捨てのほうが深刻かもしれません。一般の大人が無意識に、生活の中で川を汚している面があります。
日々の食事においても、油汚れ、塩素系漂白剤、生ゴミなどを排水溝に流してしまうと、浄化処理が追いつかなくなったり、バクテリアの働きが弱まったりしてしまいます。食べ残しや油汚れも川を汚します。
大型テレビや古いスマホ、化学繊維のある家具など、時間経過で破損して内部の液晶が漏れ出て地下水にまで影響を及ぼしたり、除草剤や塩をそのらへんの空き地に撒いてしまい、地下水にまで影響を及ぼしたりするケースも意外とあります。
一般家庭でできること
私たち一般家庭では、以下のことに意識を向けて改善すると総合力で川をきれいにできる可能性があります。
- 油をキッチンに流さない
- 塩素系漂白剤を使いすぎない
- 高濃度の塩水を流さない
- 自然に優しい洗剤や石鹸を使う
- ネットをつけて調理カスを流さない
- お米のとぎ汁を極力流さない(庭にやるとか)
- 牛乳を流さない
- ポイ捨てをしない
- 川のゴミ拾いボランティアに参加する
など、特に色のついている液体、匂いの強い液体は排水溝に流さないほうが良いでしょう。下水処理施設の負荷が大きくなることは避けて、水質改善のために行動しましょう。
龍ケ崎市(家庭でできる水質浄化対策):https://www.city.ryugasaki.ibaraki.jp/kurashi/kankyo/kankyo/kankyouhozen/2013080601508.html
一人でやって効果はあるの?
一人でやっても効果はないですが、全員で気をつけると多大な効果を発揮します。綱引きと一緒で、全員が本気出せば勝てますが、手抜きしてる人が多くなるととたんに弱くなります。大勢の意識改善でのみ、解決できる事象です。自分勝手な考えは捨てて、行動を変えましょう。
例えば、200mlの牛乳を、魚が住める状態にまで薄めるには、お風呂の浴槽11杯に相当する3,300Lの水が必要です。10万人が暮らす都市で、10万人がそれぞれに200mlの牛乳を流しに捨てている場合は、単純計算で
3,300L × 100,000
=330,000,000L
(3.3億リットル)
の水が追加で必要だということになります。富士山のそばにある山中湖が5,163個分必要となります。
しかし、10万人全員が牛乳を飲まないか、買わないか、せめて流しに捨てないようにするだけで、山中湖5,163個分のきれいな水を飲料水として使えることになり、その分の浄化コストやリスクは減って、税金の負担も減らせて、確実に自然への負荷は減らせます。
一人ひとりが気をつけて、できるだけ多くの人が気をつけることによる価値は十分あります。それを理解するための学習と教育の機会です。
【単位換算】
琵琶湖の水量:275億m3=27兆5000億L(リットル)
東京ドームの容積:12億4000万L(リットル)
山中湖の水量:63,920,000m3=63,920L(リットル)
1m3=1,000L=1,000,000cm3
1L=1,000cm3=1,000ml=1,000cc
1日に生活に必要な水の量
上記の例、10万人みんなで気をつけて節約できる水の量3.3億リットルあることを少し深めて考えます。一般的な日本人一人が生活するのに必要な水の量は200L~300Lと言われています。
3.3億L ÷ 300L
=1,100,000人
(110万人)
計算の結果、3.3億L節約できれば、110万人が満足に生活できる水の量が確保できることになります。
また、人の生存(生命維持)に必要だとする「1日生きるのに必要な水の量」は3Lとされていますので、これで計算すると
3.3億L ÷ 3L
=1.1億人
が1日生命維持するのに十分な水を飲めるだけの量を確保できることになります。10万人が牛乳を流しに捨てないようにするだけで、日本の全人口のほとんどが1日生きるのに必要な水を確保できることになります。
広い視野を大切に
たかだか200mlの牛乳なんて、と甘く考えてはいけません。日本全国の意識の低い方々が牛乳を流しに捨てていると、それだけで水質は悪くなる方向に進み、浄化施設の負荷は増えます。目の前にある少量の牛乳でさえ、何も知らずに流しに捨てていると、予想以上に大きな環境破壊につながります。
で
じゃあ、牛乳が残ってしまった場合はどうすればよいのかというと、実はキッチンで流してしまってもなんとかなります。
ダメって言ってたじゃねぇかよ、オイ、ドウイウコトダヨ。
一般的な下水処理施設は、想定しているより処理量の5倍~8倍程度は耐えられるようになっていて、多少の負荷上昇では処理場のキャパオーバーが起こるとは考えにくいです。また、財)静岡県下水道公社によると牛乳200mlで、15.6g/日のBOD量の汚濁負荷があり、一般人1人あたりのBODによる汚濁負荷は40g/日程度と想定されているため、牛乳を捨てると3分の1以上の汚れをたったの200mlで占めてしまうということになります。よって正確に表現するとしたら
残った牛乳は排水溝に流してしまっても処理能力上はなんとかなるが、処理の負荷は上がってしまうので、むやみに流さないようにしたほうが良い。
ということになります。処理はできるけど、下水への負荷は上がるため、できることなら流さないで欲しいので、飲みきれないとか、消費期限切れとか起こさないようにフードロスを減らしてくれ、というお話になります。また、新聞紙などある程度吸水できる燃えるゴミに牛乳を染み込ませて、燃えるゴミとして捨てても問題はありません。
下水処理場で処理する能力があるのは、そのために多大な研究と現場努力をしている人がいるからであって、それに頼って負担を気にせず、自分勝手に何でもかんでも流していいなんてことにはなりません。全員で牛乳を流しに、同時に捨てたら、下水処理能力はパンクしますので、もし、意識の低い人やインフルエンサーが「最近の下水処理場は処理力が高いから牛乳なんかは捨てちゃっていい」って所だけを言ってたら、そういう発言をする人には耳を今後一切貸さないほうがいいです。
正しいのは「処理はできるけど、できることなら流さないで済むように気をつけていこう。」と伝えることです。
別の例で言えば、多少は殴っても怪我はしない(痛いけど耐えれる)から、じゃあ、殴っていいのかっていうと、そうじゃないですよね?
シンガポール(PUB)の場合
シンガポールでは都市部の降水を、そのまま給水に使うために多くの水を集めています。下水道に関しては公共の下水道、工業用下水道、家庭用の下水道に分けています。
PUB排水改善プロジェクト:https://www.pub.gov.sg/drainage/network/drainageimprovementprojects
複数の濾過、バイオリアクターによる処理などを行い、20mg/Lの生物化学的酸素要求量(BOD)と30mg/Lの総浮遊固形物(TSS)の排出基準を満たして排出され、さらに逆浸透などで処理されて工業用水や時に飲料水として再利用されるそうです。発生する汚泥からはバイオガスを生成してエネルギーに変えていくという非常にクリーンな方法が取られています。最終的に残る汚泥は脱水され、セマカウ島の埋立地に使われるとのことです。
PUB Domestic & Non-Domestic:https://www.pub.gov.sg/usedwater/treatment/usedwatertreatmentprocess